November 08, 2021

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私たちは長い間、最小値や最大値、価格帯、距離の範囲など、極端な値で物事を定義してきました。そのため、公称値を無視してしまうことがよくあります。常に極端な値で物事を定義するのではなく、時には公称値で定義することも意味があります。「WebDesigner+ Power Supply™」ツール(以下、WebDesigner+ 電源ツール)では、公称電圧での動作を考慮して電源を設計する機能を提供しています。


図1「普通であることが良いこともある」 風刺画はSurinder P. Singh氏、グラフィックアートワークはKush Kaur

 

過酷な環境下での電源設計

電源は、電圧をある値から別の値に変換するものです。入力電圧は通常、公称電圧を中心とした範囲であることが多いのですが、アプリケーションによっては、公称値を中心とした非対称な範囲があります。例えば、ソース電圧の公称値が12ボルトの場合、電源設計者は、システムおよびアプリケーションの考慮事項に基づいて、(例えば)10 ~14ボルトの入力電圧の範囲で動作するように電源装置を設計することができます。

バッテリーに接続された車載用電源装置の設計を考えてみましょう。自動車のバッテリーの公称電圧は12ボルトです。コールドクランク時のバッテリー電圧は3~6ボルトに低下する可能性があります。ロードダンプ時には、バッテリー電圧は28ボルトまたは36ボルトにまで上昇することがあります。これらの極端な現象は、公称電圧を中心に対称ではありません。車載用電源システムの設計者は、このような極端な現象が一過性のものであることを知っています。電源設計では、極端な電圧に耐えて機能する必要がある一方で、公称電圧に対する最適化も必要です。このようなシナリオでは、「WebDesigner+ 電源ツール」が公称電圧の選択と設計に役立ちます。

 

公称入力電圧を用いた「WebDesigner+ 電源ツール」

この電源設計を「WebDesigner+ 電源ツール」で行ってみましょう。まず「INPUTS」タブを開き、入力電圧の最小値と最大値を入力します。「Vin min」を6ボルト、「Vin max」を36ボルトに設定します。「Optional parameters」と書かれた箇所をクリックして展開し、図2に示すように、公称電圧の12ボルトを入力します。入力電圧範囲は公称電圧を中心に対称ではなく、入力の下限は公称より6ボルト低く(12 - 6 = 6ボルト)、上限は公称より24ボルト高く(36 - 12 = 24ボルト)なっていることがわかります。


図2「WebDesigner+ Power Supplyツール」のINPUT画面。公称入力電圧は、オプションのパラメータ領域に入力する。

 

出力電圧を3.3ボルト、出力電流を3アンペアに設定します。「CALCULATE DESIGNS」のボタンをクリックして「SELECT」画面に進むと、図3のようにさまざまな電源ソリューションがリストアップされます。この画面では、設計の重要な側面である、計算された効率とICジャンクション温度に加え、推定BOMコスト、BOM数、フットプリントが示されます。表の下部にある「*Operating values are calculated for nominal input voltage (12 V)」という注記は、すべての動作値が入力電圧範囲の最悪のケースではなく、公称値であることを示すものです。


図3「WebDesigner+ 電源ツール」の「SELECT」画面。与えられた入出力条件で動作するすべての設計が表示される。ソリューションの性能は、公称入力電圧の場合に表示され、ランク付けされる。

 

ここにリストアップされている設計は最小値と最大値を考慮していますが、設計結果、製品の選択、およびランキングは公称電圧の結果に基づいています。もう少し掘り下げてみましょう。

今回のアプリケーションは車載用なので、図4のように「IC Features」のプルダウンメニューをクリックし、「Automotive Qualified」にチェックを入れると、選択肢として「NCV891330PD33R2G」が表示されます。このデザインの詳細画面に入るためには、小さい回路図表示または右の「SELECT」ボタンのいずれかをクリックします。


図4「WebDesigner+ 電源ツール」の「SELECT」画面で、オートモーティブ認定製品のみにフィルタリングされたソリューションが表示されている。

 

「DESIGN」タブの下には、「SCHEMATIC」、「OPERATING VALUES」、「CHARTS」の各サブタブが表示されます(図5、6参照)。動作値は、公称入力電圧(この例では12ボルト)で記載されています。これは、設計回路が継続して機能しなければならないという事実を除けば、設計者が極端な動作を気にする必要はなく、公称入力電圧での性能の最適化に対して、より関心があることを示しています。動作値は、電源の洗練された数学的モデルから得られ、自己矛盾のない方法で繰り返し計算されます。


図5「WebDesigner+ 電源ツール」の回路図を示す「DESIGN」タブ。

 

 


図6「WebDesigner+ 電源ツール」の「DESIGN」タブに表示された、公称入力電圧で計算された動作値。

 

「CHARTS」サブタブをクリックします。図7では、チャートには、最小電圧、公称電圧、最大電圧の3つの入力電圧条件がプロットされていることがわかります。最大値と最小値は公称値を中心に対称ではないので、曲線も対称ではありません。最大入力電圧での効率は65%、最小入力では76%、公称値では75%と、最大入力よりも最小入力に近い値となっている。しかし、前述したように、回路が極端な状態になることはほとんどないため、設計者はこれらの値をあまり気にしません。この設計では、公称電圧で動作する時間が大半を占めているため、設計者が公称入力電圧に着目して設計を選択する際の貴重なヒントとなります。


図7「WebDesigner+ 電源ツール」のチャートを示す「DESIGN」タブ。チャートは、通常の最大値、最小値に加えて、公称入力電圧でもプロットされる。

 

例えば、「INPUT画面で公称電圧が指定されていないとします。その場合、チャートは最大値と最小値の平均値の「公称」電圧(21 V = (3 + 36)/2 ボルト)で計算され、動作値は最大電圧のワーストケース(36ボルト)で計算されることになります。どちらもユーザーにとっては特に気にする必要はありません。「SELECT」画面では、公称電圧ではなく、ワーストケース(Vin max = 36ボルト)の性能に基づいてデザインをランク付けします。試しに、公称電圧を指定せずに上記の操作を繰り返して、結果の違いを確認してみてください。

 

まとめ

安全地帯から出て、普通になる。

極端に設計することが重要な場合もあれば、公称ユースケースに合わせて設計することがより重要な場合もあります。次回、電源を設計する際には、「WebDesigner+ 電源ツール」を使ってみてください。極端な設計を行いつつ、公称電圧を最適化できます。

新バージョンの「WebDesigner+ Power Supply」ツールに関するご質問、ご意見、サポートについては、design.tools@onsemi.com 宛にメールでお問い合わせいただくか、以下のコメント欄にご記入ください。